kishiro episode-02

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キシロと体を交えるようになって一年経ったけれど、いくらあいつを抱いても飽きる事は無かった。マンネリを感じた事もなく、むしろ"足りない"ように感じていた。数が足りないとか、時間が足りないとかそういう足りないじゃない。もっと貪りたい、深く奥まで繋がりたい、そんな欲望がいつも俺の中にあった。
事を終えればその時は満たされる。でもすぐに足りなくなる。  

 終わってしまえば、虚しいものだ。
ついさっきまで何度も何度も焦がれて求め合っていた唇と舌と温度が、嘘のようにどうでもよくなってしまう。
 寒々とした理科準備室で用を足したキシロが、煙草に火をつけようとしていた。
「やめろって、バレたらどうすんだよ」
 咄嗟に右手でライターを奪い取る。
「川島だってここでよく煙草吸ってんじゃん、バレねーよ」
 確かに化学の川島先生も授業前にここで一服してから理科室に入ってくる。机の上の灰皿に残された吸い殻はおそらく先生のものだろう。キシロは口を尖らせてライターを奪い取ると悪びれもなく煙草に火を付けた。
 ゆっくりと深く吸いこみ、満足気に煙を吐く。真っ直ぐに伸びては消える煙の行方をキシロは静かに見つめていた。
「はぁ…勝手にしろ…」
 昼休みの終わりを告げるチャイムを背に、俺は理科準備室を後にした。
 右手には柔らかい髪や頬を撫でた感覚がまだ残っている。耳の奥で蘇る掠れた甘い声、忘我に濡れた瞳が思い出され不覚にも体の奥がジワリと熱くなる。目の前のトイレに立ち寄り、冷水で顔を洗ってから足早に教室へ向かった。

 キシロの体に触れて性欲を満たしたい。そんな俺の好奇心から始まった最低の関係がここまで続くと思ってもいなかった。『付き合う』とは名ばかりで俺たちはセックスとエゴだけで繋がっている。
 週2〜3回、理科準備室か体育館の倉庫、時には屋上や旧校舎のトイレで逢瀬を重ね、果てるまで求め合う。その関係はそこから外へ出る事もなく、全てがそこで終わり、それ以上求める必要もない。
 用を足せば終わる。
 つまりキシロにと俺はセフレだ。
 そう気づいた時のショックは大きかった。そんな関係を作ったのは俺自身で、ただキシロを抱く事が出来れば満足だったはずなのに、いつの間にか自分の気持ちに説明がつかなくなっている事に気がついた。



「奥寺、今日どっち?」
 朝礼が終わったあと、廊下ですれ違いざまキシロが俺の肩を掴んで問いかけた。
 勿論今日は理科準備室と体育倉庫室のどっちでセックスするかという問いかけだ。まるで借りたノートでも返すかのような、醒めた声色になんだかイライラする。
「…今日はいいや」
 一瞬目を剥いてからキシロは視線を落とした。初めて俺が断った事にきっと驚いたんだろう。
「…あっそ」
 バンと肩を軽く叩いて奴は自分の教室へ戻っていった。落胆とまではいかなくても、つまらなそうな表情をしていたので少し気分がよくなった。

 次の日の放課後、体育倉庫室でのキシロはどういうわけかいつもと少し違っていた。長くキスを求め、俺の背中に回した手はしつこいぐらいに体を擦る。
「キシロ、なんか今日、違うじゃん」
「…ん…」
 キシロは返事をせず膝をついて正面から俺の腰骨に両手でしがみつき、目を閉じて舌を這わせていた。俺はすぐに堪えきれなくなり、一度キシロの頭を掴んで舐めるのをやめさせたが、奴は首を降ってそれを拒否した。狭く薄暗い体育倉庫に下品な水音がジュルジュルと響いて余計滾る。
「っやば…キ…シロ…顔に…」
「じゅる…じゅぷ…ぁ…ん?」
 舌で丁寧に愛撫を続けながらキシロが俺を見上げる。
「顔に…かかるから…もう…やめ…」
「ん…ぁあ、じゃあ…かければ?」
 俺の言葉を遮って、キシロは舌を這わせた。艶めかしく絡めてわざと咥え込まず、俺が果てるのと同時に顔を汚されるのを望んでいる。きっとそれは俺にとってもすごく気持ちいい事だろう。目鼻立ちの整ったキシロの綺麗な顔を俺自身で汚せば、絶対的な上位と征服感に満たされるはずだ。
「ほら…ッ……かけ…ろ…って…」
 キシロは唾液を啜り、舌を動かす。
 俺は我慢の限界を迎え、キシロの頭を両手で無理やり掴んで離した。期待に震え、恍惚としたキシロの表情をよそに俺はキシロの顔にではなく、脱ぎ捨ててあったキシロのボクサーパンツに射精した。
 二度三度、俺の気持ちよさに比例して勢い良く白濁の液が床に落ちているボクサーパンツを汚していく。
 キシロは今まで見たことのない茫然自失という表情をしていた。
「なん…で?」
 声にならないほどちいさな声には涙が混じっているように聞こえた。
「わざとだよ」
「は…?」
「キシロがどんな顔するのか、見たかったから」
 俺がそう答えた瞬間キシロは両手で顔を覆い、おじぎでもするかのように上体を前に倒してからしゃがみこんだ。
「…さい…ってー、だな」
 両手で顔を覆ったままキシロが震えた声で呟いた。
「っていうか、キシロさ…」
「…」
「なんで顔射して…欲しかったんだよ?」
「………」
 俺はキシロのブレザーを背中からかけてやり、顔を覆った両手を無理やり外して覗きこんだ。潤んだ瞳と紅潮した頬、少し開いた口元が厭らしくて、誘っているようにさえ見える。
「…わかんねー…」
 そう答えたあと、キシロは俺の胸にもたれてきた。体温が高く潤った肌が心地いい。そのまま正面から扱くとキシロはあっという間に俺の右手の中で果てた。気持よかったからか、悔しかったのかわからないけれど、キシロの目には涙が浮かんでいて、無意識に俺はその涙袋を舌で舐めた。されるがまま俺に目元を舐められているうちに、キシロがまた勃起している事に気づく。
 なんだ、結局気持ちいならなんだっていいんだな。そうぼんやりと考えているうちに携帯のアラームが鳴った。アラームが鳴った後、15分で正門が閉まる。
 その後はお互いほとんど言葉を交わさず、俺たちは校門を出て別れた。

 キシロとの関係はもう潮時なのかもしれない。
 自分勝手な欲求から始まった関係だったはずなのに、これ以上キシロを困らせたくないという矛盾が俺を苦しめる。
 そもそも俺はキシロにとって気楽にセックス出来る相手以上でも以下でもない現実が、ひどく辛い。
 頭痛がするほど、吐き気がするほど、今日の夕方抱いたばかりのキシロが足りなくて、俺は一人でイライラしていた。

(No.3へ続く)

奥寺が変態であって私が変態ではないのです。
柏葉が不良のくせに全然不良っぽくなくてイライラしているのは私の方でありんす。